DAISUKE UEHARA
上原 大祐
障害攻略エキスパート
2010年バンクーバーパラリンピック銀メダリスト。2012年にアメリカに渡り障がい児のスポーツ環境を学んだのち、引退後「NPO法人D-SHiPS32」を設立。障がい児に、スポーツ環境を提供したり、みんなが楽しめるユニバーサルビレッジを作り、誰もが夢に向かって挑戦できる社会を創造している。また企業ともコラボしながら、いくつもの商品開発を手がける。
働き方が多様になってきています。いい時代です。
でも、まだまだ活かされていない、一人ひとりの才能や魅力があります。だから私たちは、「特業」を始めます。
それは、あなたの特性や特技から、「特別おもしろい職業」を発明するプロジェクト。「好き」「得意」だけでなく、ときには「弱さ」も反転させ、「持ち味」に変えていきます。いやあ。働くって、いいものですね。
ここからは実際、私たちが発明した特業をいくつかご紹介します。 「こーちゃんゲームマスター」 セイヤは、急性脳症の後遺症により思うように言葉を発せない。だけど、おしゃべりをすることが大好きだ。人とのコミュニケーションは、相手がセイヤの言葉から想像を膨らませて会話が成立する。 そんなセイヤは、兄の紘雅(こーちゃん)のことが世界で一番大好き。いつも一緒にいるこーちゃんは、気になって仕方がない存在。脳内90%は「こーちゃん」が支配しているのではと感じるほど、誰と話しても、会話の返事のほとんどが「こーちゃん!」になる。 「かーちゃん」「あーちゃん」など、他の言葉が飛び出すことはまれである。ちなみにかーちゃんは母。あーちゃんは父のこと。家ではあまりにも「こーちゃん」ばかりでうるさい時は「ほかの言葉で返事をしなさい」と不条理に怒られる原因にもなる。 おしゃべりをすることで人との関わりを楽しんでいるセイヤだが、話す相手にとってはどう話しかけてよいものかと戸惑うのではないだろうか。そこで生まれたのが、「こーちゃんゲームマスター」だ。 ゲームマスターのセイヤから、5分間の中で、いかに多くの「こーちゃん」という言葉を引き出せるかというゲーム。一回の「こーちゃん」につき1点。「かーちゃん」は2点。滅多に言わない「おーちゃん」は高得点の5点。「こここここーちゃん」などは、「こ」の数だけ得点になる。 言葉を引き出すために、お客さんはどんどんマスターに話しかける。返事をするセイヤの言葉に聞き耳をたててくれることは、それだけでセイヤにとっては嬉しいことであり、「こーちゃん」を連呼しても怒られるどころか、喜んでもらえる。なんて楽しい会話であり、ゲームの時間だろう。 「フォーチューンカードテラーユメ」 Yumeは、まだ母のお腹の中にいる時に、定期検診で病気が見つかった。複数の医師から衝撃的な言葉で断言されるとともに、親は命の選択を迫られた。 「予後不良」。しかし母親はその言葉から思った。「一体、どんな風に育つのだろう?」。改造バイクを乗り回したり、濃いメイクにピアス、校則違反の制服を着て、学校をサボったりするのだろうか?Yumeの「不良」姿を想像したら、なんだか面白くなってきて笑えた。 8歳になったYumeは不良少女ではなく、仲間と共に「流し目ギターデュオ」として特業デビューした。ほどなくしてデュオ活動休止。11歳で特業転職に挑戦することになった。次はどんな仕事がやりたいか?得意なことは何か?話し合った。 日頃から家や学校で、家族や友だち、先生を応援したり、励ましたくて言葉を掛けると、みんなが笑顔になったり、「ありがとう。元気がでたよ」と言われる。みんなの心をゆるゆるとほぐす仕事はどうだろう?と方向性が決まった。特業の名前は「フォーチューンカードテラーユメ」。 Yumeは人工呼吸器を使っているので声が出しずらいが、 iPadと指伝話アプリがYumeの声のサポートをする。右手のスイッチで指伝話アプリに入れてある「言葉カード」を選び、次に左手のスイッチを操作して音声合成が発話する。これがYume独自のコミュケーションスタイルだ。 フォーチューンカードの内容は、Yumeが考え、母がサポートしながらカードを作成した。占う時も同様に、右手のスイッチでカードを選び、左手のスイッチでフォーチューンカードに書かれていることをお客さんに読んで伝える。 「すごい。当たってる」「嬉しい。ありがとう」「本当の悩みは、口に出せなかったのに、なんでわかったの!?」「なんだか、がんばれそう」。お客さんに喜んでもらえた。これからも、フォーチューンカードをみんなに届けたい!Yumeはそう言って、今日も特業に磨きをかけている。 「脳内チアリーダー」 KANONは生まれた日に「大田原症候群」という難治性てんかんを発症した。体を動かすことも、言葉で表現することも難しいけれど、楽しいことや嬉しいことは心からの「笑顔」で伝えることができる。 KANONが笑うと、みんなも笑顔になって「いいことありそう!」と喜んでくれるのが嬉しい様子。そこでKANONの母は閃く。「笑顔で人を元気する職業といえば、チアリーダーがいいのでは」。可愛い衣装も、キラキラしたポンポンも、ノリノリの曲を聴くのも彼女は大好きなのでピッタリだと母は感じた。 本来チアリーダーは、体や声を使って応援するものだけれど、KANONにはそれができない。しかし「心」を通わせて応援させていただくことで、彼女にしかできない応援の形がある。そこで職業を「脳内チアリーダー」として、お客様が応援されたい内容を思い描き、KANONが笑顔になれば願いは叶う!というスタイルになった。 結果的には、KANONに笑顔になってもらいたくて、みんな必死にポンポンを振ったり、笑顔で語りかけてくれたこともあり、KANONは沢山の笑顔を振りまくことになった。KANONだけではなくて、お客様も心から笑顔になれる魔法の特業だ。 次はあなたの「特業」を発明しませんか?